彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)





顔へと手を伸ばし、鼻と口を覆っているバンダナを直す。

そして、布越しで大きく息をはく。

思案する。





(ここを探すのも、今日が最後かも。場所を移動する・・・時期なのかもしれないしね。)





瑞希お兄ちゃんを探しに行くのは、いつも地元から離れた場所だった。

あの時に乗った路線は覚えていたので、それを頼りにそれらしい場所を探している。

この6年でそれらしいところをすべて回った。

それをもう一度、回り直していた。






え?

なんでそんなことするかって?


だって、私が聞いたその時に、知ってる人がいなかっただけかもしれないでしょう?


しかも私の聞き込みは、継続で、出来てるわけじゃないの。


テストがあったり、おじいちゃん達の実家に行ったりとか、毎週、毎日探せるわけじゃない。


だから、取りこぼしがないように行った場所にまた行ってるんだよ。


今回はまだ、高校の入学前の休み期間だから、多少の無理が出来る。





明日も探せるから、諦めもついた。


チャンスはあると思いながら、駅へと向かって歩いた。




それでも。







諦めて帰るしかない・・・この時間が嫌だった。









(あの時、瑞希お兄ちゃんの名字と一緒に、チーム名を聞いていれば・・・)





瑞希お兄ちゃんの両腕に書いていた四文字熟語。

覚えていたが、肝心の看板を、チーム名を見ていない。




「はあ?『不羈自由(ふきじゆう)』に『百鬼夜行』ってチーム名の族ぅ~?」

「聞いたことないわ。ないない。」

「『百鬼夜行』なら、俺も特服に入れてるけどよー」






私の記憶にあったのは、どうでもいい情報。


暴走族の多くは、チームの名前は胸ポケットや背中に書いているらしい。

統計的にそうみたい。

上着がロングだったりすると、すそ部分に書かれているそうだ。



しかし、あの時の瑞希お兄ちゃんが着ていたのはショートの上着。



そうなると、背中に書いていた可能性が高い。





(それなのに・・・!)




バイクの後ろに乗せてもらったのに。

おんぶしてもらったのに。





(瑞希お兄ちゃんの背中という特等席に、至近距離にいたというのに・・・!)





見てなかった・・・!!




見ないどころか・・・・!!!






”瑞希お兄ちゃーん、やわらかーい”

”こらこら、くすぐったいだろう?”




(ずっとお兄ちゃんのほっぺに、自分のほっぺをくっつけて話していた・・・。)




甘えることを優先してしまった・・・・!!




「まぁ・・・それはそれで、瑞希お兄ちゃんに触れたからいいけど。」





その件に関しては後悔していない。

すべすべの肌、触れて嬉しかった。

サラサラの髪、良い匂いがして、ドキドキした。




(変態か・・・!)





自分で自分にツッコミ。





は!?

あ、うん・・・だからそのね、うん・・・


・・・。

・・・。

・・・。



――――――――――そう!それに、背中だけしか書かないって人ばかりじゃないの!


[★凛は、都合の悪い話を誤魔化した★]



だからね!腕部分に書く人もいるらしいから!


だから、瑞希お兄ちゃんもそうだと思って―――・・・!


そう願ってたんだけど・・・・





「『不羈自由』も『百鬼夜行』も、俺らの県じゃあ、聞かないチーム名だ。多分、ないんじゃないか?」




ある時、夜の店で働く暴走族のOBのお兄さんが教えてくれた。





「俺が現役の頃も、その前も、そういうチームのことは聞いたことない。」

「そう・・・ですか。」

「そうだ!ほら、わかったら、5000円だしな。」




後にも先にも、お金で情報を買ったのはそれっきり。

樋口一葉がおしかったわけじゃない。

ただ、お金を使ったところで瑞希お兄ちゃんには会えないとわかって馬鹿らしくなっただけだ。