彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)




携帯をもう一度見る。

私に残された時間を知って、ため息が出た。





(もうすぐ終電の時間・・・今夜はこれで終わりね。)





瑞希お兄ちゃん探しは、夜の限られた時間しかできない。



昼間でも出来ないことはないが、朝や昼に群れているヤンキーを見かけることは少ない。

学校にいるヤンキーの子達も、明るい時間に学校にいるのをあまり見ることはない。

朝から来ていることの方が珍しい。

来てるなと思ったらもういない。

今日は来ていないと思えば、下校時間の校門でたむろしていたりする。

ヤンキー同士、集まって話をしてる。

内緒で瑞希お兄ちゃんを探してるから、声をかけられない。

同じクラスのヤンキーっぽい子にすら、私は話しかけられない。

なんとなく、話しかけたくない。



私の大事な話を、他の誰かにしたくない。

身近だった両親でさえ、拒絶したこと。

探していると言って、協力してくれるとは限らない。

からかわれて、ネタにして遊ばれるような気がした。

現に、私の身近にいるヤンキーはそういう子達ばかりだ。




偏見かもしれないけど・・・・言えない。




気持ちだけじゃなくて、立場的に言えない。



小学校でも中学校でも、私は「普通の優等生」という立ち位置にいた。



不良からすれば、「気安く声かけるな、真面目ちゃん?」である。



だから単体でいても声をかけられない。

一対一でも、話しさえしてくれないだろう。



だから、声をかけるなら、夜の暗がりで顔の形がごまかせる時間帯。

口と鼻をバンダナで覆うことでパッと見、判別できない。

声は誤魔化せているかわからないが、人は見た目で判断する。

平凡で真面目そうな子が、こんな姿をするはずがない。

そんな先入観を頼りに、今日までやって来た。



やってこれた。




(知られてはいけない。)




私、菅原凛が暴走族探しをしていることは、バレてはいけない。




両親の立場上、いい子でいなければいけない。

「会うな」と言った彼らへの反発と、「嘘をついている」という子供としての親への罪悪感からだ。



このことは、友達にも言えない。

相談できない。

言えないじゃなくて、言わない。



だって、私自身の問題だから、友達を巻き込むつもりはないの。

だから、言うつもりはない。

相談もしない。



秘密を守ろうと思えば、私自身が言わないのが一番いいことだとわかっていた。




・・・もしかしたら・・・。



口と鼻を隠す姿を選んだのは、そんな私の『無自覚な気持ち』の表れなのかもしれない。