慣れた動きで、瑞希お兄ちゃんは単車を止める。
そして、私を背負うとバイクから離れた。
「バイクは連れて行かないのー?」
「俺の単車を、ギる(盗む)馬鹿はいない。」
「ふーん。」
意味はわからなかったけど、大丈夫らしい。
お父さんとも、お母さんとも違う背中でそっけなく返事した。
いい匂いのする髪を、触っていれば、くすぐったいと笑われた。
「くすぐってぇー」
「えへへへ♪」
それが楽しくて、耳やほっぺたも触っていれば、さらに笑ってくれた。
ニコニコしながら、私を見る目にホッとした。
「『暴走族は怖い』って先生が言ってたけど、瑞希お兄ちゃん怖くないよ。」
「凛の前だから、猫かぶってんだよ。特別だぞ?」
「あははは!特別なんだ~?」
「そう、特別。」
「ねぇ、暴走族って、ヤンキーなの?」
「そうなるな。」
「なんで瑞希お兄ちゃんはグレたの?」
「・・・まぁ、いろいろ理由があり過ぎるな。」
「説明しなきゃいけないことが多いの?」
「凛と同じだよ。」
ようやく見えた街灯の光の中で、瑞希お兄ちゃんは言う。
「凛も、ムカつくこと、多すぎるんだろう?」
「・・・うん。」
「俺もだよ。原因は1つだけのはずなのに、枝わかれしてる。あの木の枝みたいに。」
あごで指さした先に、大きな大木があった。
公園にある木だった。
太い幹からたくさんの枝がのびて、生い茂っていた。
「俺も凛も、あの木の幹みたいに『怒りたくなる問題』があるんだよ。それが、どんどん複雑になって、増えていって・・・今は収拾がつかないんだろうな・・・」
「じゃあ、切っちゃえばいいの?」
私の言葉に足を止める瑞希お兄ちゃん。
「盆栽みたいに、いらない部分は切ればいいのかな?どんどん切っていけば、『怒りたくなる問題』の『純粋な理由』だけが残るよね?」
私の言葉に目を見開いてから、瑞希お兄ちゃんはつぶやいた。
「・・・子供はこえーな・・・時々、ドキッてすること言うからよー」
それは聞こえるか聞こえないかの声。
聞こえたけど、聞き返してはいけない気がしたので、聞こえなかったふりをした。
彼は彼で、独り言のように言ってから再び歩き出したのだった。


