「いらっしゃいませー」

街の割と大きな食堂。夜は酒場にもなるここが、私達の仕事場。

制服が可愛いんだこれが。
白い襟のついた水色のパフスリーブの膝丈ワンピースに、白いフリルのエプロン。
私の世界で言う不思議の国のアリスみたいなの。


「多分その辺の文化も、そっちの世界から流れてきたんじゃね?」

フィル君は白いシャツに黒いパンツ。
シャツの襟に金色の細い鎖をしてて、おお、これアリスのウサギさんかな。

「異世界召喚って結構前からあってさ。リコの世界のやつもきっとどっかにいるよ」

トレイを器用に指で持って、フィル君はそう言った。
おお、格好良い!鼻血が出そう!
ちなみに私はトレイを三回ひっくり返した。15分で三回。お願い店長、睨まないで。

「この世界で初めて異世界召喚に成功したのは、アルティス師匠なんだぜ。すげえだろ」
 
フィル君が内緒話のように私に囁いた。なにそのドヤ顔。

「なん……だと?」
「うんうん、お師匠様あんなだけど、ほんっと魔導士としては最高で」
「……すべての元凶はヤツか……!」
「え?」

フィル君はそこで初めて私の黒いオーラに気付いたらしい。
慌てて私を覗き込んだ。

「っ、あのさ、お師匠様は悪くないんだって、俺が変な召喚の条件つけたから!」
「よし、あいつをロースト粗挽き超ブラックに……」
「そ、それコーヒーの注文じゃないのか!?っていうかお前散々師匠に懐いておいて」

今にもトレイを握りつぶしそうな私に、フィル君は青くなる。
そこに響く、お客さんの声。

「すみませーん、注文」
「はあーい、ただいま♡お帰りなさいませえ、ご主人様!」

咄嗟にメイドカフェ物真似をして振り返ったら、なぜかフィル君は壁にゴンと頭をぶつけていた。ご乱心か。