一気にあふれた言葉は、毒ばっかり。

 ……なのに何でかなあ。
 フィル君、泣きそうな瞳で言うから。そんな顔して文句言う癖に、肝心の一言を言わないから。

 ーー私のために。


「宰相さん、私、ここが気に入ってるんです」

 ニヤリと笑って繋がれた手を上げて見せて。

「かっこいい彼氏もできたことだし、甘やかしてくれるお師匠様もいるし」
「最愛のお兄様もいるもんな」
「それはどうでもいい」
「リコォォォ!?」

 なんか途中で挟まったお兄ちゃんの言葉は冷たくあしらって。でもフィル君の手は離さずに。

「だから、良いんです。ここに居たいんだ。何せうっかり召喚された美少女女子高生だからね!」



 穏やかな笑みを浮かべた宰相さんと、ニヤニヤムカつく笑い顔の兄に別れを告げてお屋敷を出た私とフィル君。
 黙り込んだままのフィル君の隣で、私はひとり上機嫌。

「ねえねえ、宰相さんかっこよかったねー。甥ならセレ様も将来ああなるかなあ?」
「……俺の方が将来有望」

 ぼそりと返ってきた言葉に、やっと元気出てきたかな、とちょっと私の気分が浮上。だって一人で喋ってたら寂しいじゃん?

「あらいやだフィル君たらヤキモチ?さすが私の未来のお嫁さん」
「誰が嫁だ。せめてそこは旦那さんだろ」
「フィル君の日頃の行いが、いいお嫁さんになると確信させるのよ」
「リコの日頃の行いは、典型的なヒモ旦那になると確信させるしな」
「あれえ?お前なんかお断りだって言わないのお?」

 そういえば宰相さんの前で彼氏って言った時も否定しなかったな、フィル君。
 ニヤニヤ笑ってフィル君の顔を覗き込んだら、真っ赤になった彼に睨まれる。

「口が滑っただけだっ……」

 何だこれ!可愛すぎるんだけど!フィル君が可愛いんですけどー!誰かこの感動を分かち合おうよ!


 繋いだままの手を引いて、フィル君が立ち止まる。つられて私も立ち止まった。
 傾いた夕日に照らされて、長くなった影を眺めながら、彼がポツリと言う。

「本当に、帰らなくていいのか?」
「うん。そう言ったでしょ」

 何でもないように言ってじっと見つめれば、フィル君の視線が返ってきた。

「だから、言ってもいいよ。フィル君の本当の願いを教えてよ」

 罪悪感でも、使命感でも、うっかり情が沸いちゃったとかでもいい、フィル君の本当の気持ちなら。