「2年前、この国の宰相に依頼されてね。異文化を学ぶために異世界の優秀な若者を召喚したんだ。それがリヒト。宰相が気に入っちゃって、そのまま彼の伯爵家に客人として住んでいるんだよね」

 お師匠様の言葉に頷く兄。私は目を見開いて拳を震わせた。

「何それ……!」

 私の様子に、フィル君がオロオロと言葉を掛ける。

「リコが怒るのも無理は無い。大切な家族を奪われたんだ。だけど抑えてーー」
「私はうっかり召喚なのに!お兄ちゃんが優秀な異文化大使って納得いかない!異文化って秋葉原地区に偏ってんじゃないの!?」
「そこか!お前の怒るポイントはそこなのか!」

 フィル君はゴン、とテーブルに頭を打ち付けた。痛そうだ。
 えええ、だってそうでしょう?私のミラクルスーパープリティさも充分、優秀と言い換える事が出来ると思うのよね!

「しかも宰相さんに気に入られて屋敷に囲われるとか!BでLな愛人!我が兄ながらスペックがカオス!!」
「愛人じゃない、客人だ!言い方!お前不敬罪で首飛ぶぞ!!」
「あはは、そういう意味で気に入ってるんじゃないと思うけどね〜。あ、私はリコを囲っているんだからね?」
「お師匠様も言い方!犯罪者で捕まりますよ!!」

 フィル君のツッコミが追いつかない。ごめんね、ボケ要員ばっかりで。
 私達の様子に、兄は首を傾げて。それからふんわりと笑った。

「楽しくやってるみたいだな、莉子」

 良い兄そのものの笑顔で。
 
 ーーでも兄よ、右手の木彫りの熊は私のだ。