「っ、おにいちゃんて、莉子の家族!?」

 ぽかんと口を開ける私。驚愕に目を見開いて私たちを見比べるフィル君。そして兄はーー

「奇遇だな。じゃあ」
とナチュラルに手を挙げて去ろうとして。

「ちょっと待てやあぁぁぁ!!」
と叫んだ私の足払いがクリティカルヒットして床に転がった。ざまあみろ!

「ねえ今すっげえ自然に横取りしたよね?さりげなく木彫りの熊をお会計しようとしたよね?私が先に見つけたのよ、おにいさま」
「……しばらく逢わない間に腕を、いや足を?上げたな、妹よ」

 転がった兄に跨がって胸ぐらを掴めば、兄は観念したように両手を上げた。その右手の熊を速やかによこせ、兄よ。

「ちょ、ちょっと待て!!他に言う事あるだろう!?異世界召喚されて再会した兄妹の、最初の会話として間違ってると思うのは俺だけか!」

 フィル君が衝撃から立ち直ってツッコんだ。それもそうだ。

「……お兄ちゃん、なんでここにいるの?」
「何でって木彫りの熊をお使いで頼まれたからで……」
「そうじゃない!なんでこの世界にいるんだって意味だ!」
 なんだか私以上にフィル君がお兄ちゃんを尋問してますよ。なんだか目が超真剣なんだけど。どうしたフィル君。
「……なんでって、召喚されたから。アルティスって魔導士に」
「「はあああああ〜!?」」

 やっぱり諸悪の根源はお師匠様でした。


「リヒトがリコの兄だったとはねぇ」

 兄を引きずってウチまで戻って来た私とフィル君に、お師匠様はあっさりと事実を認めた。
 優雅にお茶を嗜みながら、にっこりと兄に笑いかける。

「リヒトは私が召喚した異世界人なんだ。もう2年前になるかな」
「えええ……」

 私は兄とアルさんを見比べてハッと気付く。兄に詰め寄った。

「この世界にメイド喫茶の文化を持ち込んだのはキサマか、兄よ……グッジョブ!!」
「いやあ、それほどでも」
「そうじゃないだろう、リコ!!」

 親指を立て合う私たち兄妹の姿に、フィル君はそう叫んでがっくりと項垂れた。

「あっちでも同じ時間の流れなら、リコの兄は2年間行方不明だったってことだよな」

 フィル君が確かめるように私に聞く。私は頷いた。

「2年前、お兄ちゃんアメリカ留学に行ったんだよ。海外行ってすぐ連絡つかなくなったから、ただ忙しいのかと思ってたー」
「お前がこっち来るまで1年半、ずっと音信不通だったのに不審に思わなかったのか?」

 フィル君の目がちょっとだけ鋭くなって、アルさんもこっちを見ていて、私はにかっと笑ってみせる。

「金髪美女とよろしくやってんのかと思ってたから。お兄ちゃんもそれなりにモテるからねえ、私のミラクルモテスキルには遠く及ばないけれども!!」

 ふふんと笑ってみせれば、兄もふふんと踏ん反りかえった。

「それほどでもあるがな」

 あっ、フィル君がぷるぷるしてスリッパを握りしめましたよ!ツッコミ必殺技炸裂用意でしょうか!

「……リコの兄だというのがよおくわかった」

 どういう意味だ!