「私はリコがイイのだ!」

「えーこんなモテ期要らなーい」

「リコひどい。でも可愛い。なんかもう全部可愛い」

大丈夫か、この王子様。ヤンデレ属性持ってるぞ。この国大丈夫か。

涙目でじいっと見つめられて、ちょっとぐらっと来ちゃってる私に、王子様はなおも追撃。

「リコってどういう字を書くのだ?ちょっとここに名前を書いてみてくれないか」

「えーいいけどー」

「リコ、それ婚姻届だぞ」

フィル君が焦ったように後ろから覗き込んで言う。

なんだと!!危うく騙されるところだった!
異世界言葉はお師匠様の魔法で自動翻訳されるけど、文字は読めないんだ。
さすが王子、子供と言えど策が高度だわ……。

困った私はハッと隣のフィル君の腕を掴んで、思いっきりしがみついた。

「残念でした。私、フィル君のお嫁さんになるから!」

「「「えええええ」」」

何か今たくさん声がしなかったか。

必殺『恋人のフリ』攻撃に、王子様はよろめいた。ふらふらと食堂を出て行く。

「わ、わたしは諦めないからなあああ!」

「あっ、待って王子」

「え!?やはり私の魅力に気付いたかリコ」

「お勘定。王子様といえど食い逃げは許しません」

「……うわああああん!!」


王子様は泣きながら出て行った。
ああ、幼児虐待って通報されないことを祈る。


どうでもいいけど、王子様であるおこちゃまが独りで下町の食堂に来ていいのか。
と思ったら護衛っぽいお兄さんが軽く頭を下げて出て行った。なるほど、苦労してそうだ。