「……し、汐田くん……!」



後ろから声をかけられ、振り返る。


……タイミング悪い。勇気出したのに。


て、せっかく話しかけてくれた汐田くんが、文句を言われる筋合いなんかないの、わかってるけども!



「掃除終わったの? 早かったね」

「……え、と、……実、は、」

「メーちゃん」



――前と同じ。


背後から、その人が私の名前を呼ぶ。


今、もっとも伝えたい気持ちがある人。



「……サクロ」



驚いたのと緊張で、声が掠れた。だって、いつの間に。


……また話しかけてくれた。たったそれだけで嬉しい。泣きそうなくらい、嬉しい。



「いい加減にしてくれなきゃ、さすがにメーちゃんでも怒るよ」

「……え?」



怒ってるような表情の彼が、私の耳元で囁いた。


そのまま強引に腕を引かれ、サクロに引っ張られるまま懸命に足を動かしてついて行く。


すれ違いざま、不安そうに私を見た汐田くんに、大丈夫、と口パクして、緊張したまま微笑んだ。