――昨日あれから、ズキズキと頭痛が止まなくなった私は、ひとりで逃げるように店を出た。



“メーちゃんは、おれと結婚するんだよ”



小さい頃サクロが言ったそれは、幼い彼の気まぐれで、でまかせて、今となっては懐かしい思い出話の笑っちゃうような可愛い冗談だと、分かっていたはずなのに。


同じことを、そのまま丸々静ちゃんにも言っていたという事実に、自分でも引くほどのショックを受けた。



ところが当の本人のサクロは、そんなこと全く覚えていないように、動揺すらしていない。


こんなことで何も自覚ないサクロを避けるのは間違ってるって思うけど、でも、今は話したい気分じゃないんだ。


私に傷つく権利も何もないってわかってるけど。


――心のどこかで、私はサクロの特別だって、思いこんでたから、こんなに悲しいんだ、きっと。すごく自意識過剰で、恥ずかしい。


私なんか、勝手にヤキモチ妬いて、拗ねてる、小さい子どもそのものじゃないか。



「……んー、佐久路、教室に戻ったみたいだよ」

「……ありがとう、七海ちゃん」

「いーえ」



彼女に続いて、静かになった廊下に出れば、次の授業の開始を告げるチャイムがちょうど鳴った。


二人して慌てて教室に駆けこめば、皆の視線が集中して恥ずかしい。



――サクロの方を見ないまま、席に着いた。