あれから、車を母が走らせて数分。

 車が静かに停まった場所は、とある某高級料亭の前だった。

 すると、料亭前に佇んでいた黒スールの男性が二人が車に近付いてきた。

 話しているらしいので、それは丸聞こえなので情報も‘声’で抜き取る。


『ドアを開けてくれるらしいよ』

「そう。
 教えてくれてありがとう、氷」

『んーん』


 取り敢えず、黒スーツの男性達が車の前まで来るまで待機していれば運転席に座っていた母さんに右手を握られる。


『どうしたの?』

「ん?なーとなくよ、なーんとなく」


 優しい笑みを浮かべる母さん。

 そんな母さんに、少しだけ不安に思っていた事を気付かれたんだと感じた。

 ホント、敵わないなぁと思っていると男性二人が助手席と運転席のドアをそれぞれ開けてくれた。


「ありがとう、暁君。ハル君」


 黒スーツの男性を二人を知っているらしい母さんが、名前をと呼んだ。

 二人も、それぞれ母さんに頭を下げてエスコートらしいエスコートをする。

 私の場合は、人見知りを発揮して母さんの手をニギニギと握る。


「雛さん、頭達はもう揃っています」

「分かったわ。ありがとう」

「いえ、自分達の仕事でもあるんで」


 暁君と呼ばれた男性は、小さく頭を下げる。

 ハル君と呼ばれた男性は、少しだけ微笑んでいる。

 頭の中では、私の事を人見知りな子だなぁと思っているらしいけど。


「では、頭達が居る所までご案内しますんで」

「よろしくお願いね」


 私に手を握られたまま、母さんも歩き出す。

 必然的に私も歩き出す形になって、一緒に案内されるまま頭達がいる場所へと向かう。

 料亭の中に入れば、全くもって静かだ。

 お客さんも居ないのか、しーんとしているし従業員さんも少数。