年下男子の一途な愛情




「でも、寂しくなるわねぇ」



なんて涙ぐみながら言うお母さん。



「何言ってんの、会えなくなるわけじゃないでしょ?」



隣に住んでるんだし、流架が行く高校だってそんなに遠くないんだから。



「そうね。今日は楽しみましょ」



目に溜まっていた涙を拭うと、お母さんは冷蔵庫からケーキを取り出した。


流架が甘いものが苦手だと言うことをお母さんもしっかり覚えていたらしく、ケーキはチーズケーキ。



「流架くん、これなら食べられるわよね?」


「はい、ありがとうございます」



この時の流架はどこか落ち着いた雰囲気だった。



「流架、ケーキ今食べる?」


「ん。サンキュ」



でも久しぶりに私とも普通に話してくれて。

ギクシャクする前と同じ雰囲気で安心してた。



…だから、気づかなかったんだ。


その落ち着いた雰囲気は、卒業式だったからだと。


思い出に浸っているんだって、そう思ってたから。



「紗季は早く秋良さんと付き合えよ」


「ちょっ…流架、親の前で言わないでっ」



気づかなかった。


流架の笑った表情が苦しそうだったことも。


私を見つめる目が、酷く哀しげな目をしていた事も。



何ひとつ、気づかなかったんだ…。