「涙(るい)。あんた、来月から予備校行きなさいね」





7月24日。


夜ご飯の食卓について早々、母の開口一番の言葉がそれだった…。




「は…?」


危うく指の力が弱まり、大好物の唐揚げを落としそうになる。


思い切り眉をしかめる自分に対し、母は黙々と野菜を口に運んでいた。


まるで、無機質なロボットのように…




「予備校って、なんの…?」


「公務員よ、公務員。前から言ってあったでしょ」


母は昔からよく、常に世間体を意識する人だった。


私には兄がいて、去年、海上自衛隊とやらに就職を決めると共にこの家を出て行った。


海上自衛隊というのは、よくわからないけど、海の上で外国の船が勝手に侵入してくるのを防ぐとかなんとか…


そんな兄を、母はとても誇りに思っていて、それが更に母の世間に対する性格を変えてしまった。優秀な兄とは違って、平凡に生きてきた私にさえ、華やかな職とやらに就かせようとするのだ。大人の言う「華やかな職」というのは、給料が高いこと。


確かに私には、これといって将来の夢なんてない。


そんな自分に、母は「給料もいいし安定しているし、公務員でいいじゃない」と昔から言っていた。


だけど…


まさか、予備校に行けなんて話になるとは…