校門を出たところで、私はゆっくりと後ろを振り返った。


「ボールそっち言ったぞー!」


「いけー中沢!シュートシュート!」


すぐそこのグラウンドから、サッカーをして遊んでいる男子の楽しそうな声が聞こえる。





保健室……結局行けなかった。


ここから見える保健室の窓には、白いカーテンが閉められていて、中の様子を確認することはできない。


奈々子は、まだベッドの上で泣いているんだろうか…?


ひとり寂しく、恋人の死を受け止めきれずにいるんだろうか…?


私にはわからない。最愛の人なんていないし、身近にそう思わせてくれる人もいない。ついさっき、それを身にしみて自覚したのだ。


だから、想像することはできても、奈々子の気持ちを完全に分かち合うことはできなかった。だからこそ、そばにいて背中を優しくなでてあげたかったのに…


だけど…もう学校に戻るわけにはいかない。


咲乃たちと鉢合わせになるのは嫌だし、かばんを持って帰ろうとしているところを先生に見られても厄介だ。


どうせ明日から、嫌でもまた空っぽの付き合いをしていかなければならない。あの3人とは、もう顔を合わせたくない。せめて、今日だけは…。


クルリと、校舎に背中を向ける。


ごめんね、奈々子…


心の中で、小さくそう言って……私はその日、初めて学校を無断で抜け出した。