走って、走って、走って……


ようやく私の手をつかんでいた、前を走っていたサイの足が止まる。


「はあ……はあ……」


たどり着いたのは、古くて大きな建物だった。


「ここ、が……」


サイと奏ちゃんが暮らしている場所、暮らしていた場所…。


「……」


サイは何も言わない。後ろからじゃ、どんな表情をしているのかはわからなかった。


無言で歩いて行くサイ。夕暮れだからか静かで、どの部屋にも人の気配が感じない。


どうしてだろう……


アパートなんて、どこもこんな感じなのだろうか。家の近くにはないから、よくはわからないけど…。


建物の階段へとさしかかると、サイは何も言わずそこを上り始めた。どうやら、部屋は2階にあるみたい。私も黙ってそれに続く。


サイのお母さん……


サイを産んでくれた人…


「行こう」と最初に言ったのは私なのに、ドキドキする。


階段を上り終えると、数メートル先まで通路が続いており、右手側にはそれぞれの部屋へと入る黒いドアがいくつかあった。


左手側は町の風景が一望できるようになっている。すっかり地平線の彼方へと沈もうとしている夕日が綺麗だった。