「春菜ー。水注いでくれ。」
真っ青な空の下、白い入道雲は大きく育ち、ジリジリと陽射しが俺たちを照りつける。
「うん、ちょっと待って。あ!見て、あれ。」
春菜の指差す方向にはひまわり畑が広がっていた。大きなひまわりはギラギラと光る太陽いっぱいに伸びていた。サワサワと風が吹くと、嬉しそうにゆれるひまわりがきれいだった。
「きれいだなぁ。夏を感じるわ。」
少し小高い丘にある、俺の初恋相手だった女の墓。
「えりなが亡くなって五年経つのか。早いもんだな。」
横で手を合わす春菜は静かにうなづいた。
「ねぇ、もうそんなに経つのね。私たちも23歳だよ。信じられないなぁ、ほんとあの頃は子供だったな。」
春菜は頭に被る麦わら帽子を深く被り直し下を向いた。線香がジワリと燃え尽き灰になる。
「なぁ、春菜。」
近くで鳴く蝉の声に負けない様に声を張った。
「ん。どうしたの。そんな改まって。」
大きく息を吸い、ひまわり畑にもう一度目を向け、春菜をみつめた。
「春菜、結婚しよう。」
鳴り響いていた蝉の声が止んで、一瞬、静寂が俺たちを包んだ。春菜は驚きが隠せないようだったが、すぐに首を横に振った。
「私、まだ、待てるよ。だから、ね、そんな責任感じないで。私もう大人だよ?」
頬を膨らます春菜のことを素直に可愛いと思った。
「俺はもう前に進むって決めた。春菜のこと1番だよ。大好きだから。待つとか、そんなこと言うな。俺はもう失いたくないんだ。大切なものを守りたい。」
春菜の方に手を置き、視線を合わせるために屈むと春菜は涙目でうなづいた。
「いいの、いいの、私で。私で本当にいいの。ありがとう、祐樹。」
柔らかな春菜の香りを感じた。俺の胸の中で小さく泣く春菜の背を優しくさすった。
えりなの墓をちららと見ると、えりなが笑っている気がした。
(えりな…。ありがとう、俺、きっと幸せにする。春菜守るから。なぁ、お前もそっちで幸せになってくれ。)

太陽に向けて伸びていたはずのひまわりがこちらを向いている気がした。