衣麻と僕と俺と私




「あ、衣麻ねぇが起きとる」


「衣麻ぁ!」


階段を下りて来た瑛太が言うと、瑛斗も真似してる。


そういえば瑛斗とちゃんと顔を合わせるのは


随分久しぶりな気がする。


ここ数日は夕食も家族と別だったから。


「おはよう瑛太瑛斗。ごめんね心配かけて」


「は?心配なんかしてないですー」


素直じゃないんだから。


隠してるつもりかもしれないけど私には分かる。


ちょっと耳が赤くなってる時は図星の証拠。


「衣麻、元気?」


「うん、元気。でも、衣麻じゃなくて衣麻ねぇね」


「衣麻!」


瑛斗にとって私は“衣麻”でしかないみたい。


お母さんも台所で苦笑いしてるけど嬉しそう。


また心配たくさんかけちゃった。


「あ、時間だ。じゃあ、行って来ます」


「あぁ衣麻!お弁当忘れとる」


お母さんの言葉に鞄の中を確認すると


確かにいつもお弁当を入れるスペースが綺麗に空いてる。