衣麻と僕と俺と私




多分瑛太は


翔馬の存在は覚えてるけど家は覚えてない。


「あれ?先月までは空家やったんやけどね」


衣麻も今は純粋にびっくり。


翔馬がいないことは分かってるから動揺もしないし。


だけど、無意識に表札を確認してしまった。


「馬越さんか。どっかから引っ越してきたんかもね」


分かってはいたけど、少しがっかりしてしまう。


衣麻が知ってるのは“檜垣翔馬”だから。


「ふーん。母さん何も言ってなかったのに」


確かに、瑛太の言う通り。


“ご近所さんから挨拶があった”なんて一言も聞いてない。


ってか、それより・・・


「瑛太・・・母さんって言うようになったん」


再び歩き出した瑛太に思わず言った言葉。


俺って言うし母さんって言うし。


「やけん、周りはそれが普通。


いつまでも衣麻って言う方が変」


そんなはっきり言わなくても。


でも、確かにそうなのかも。


“私って言うように頑張ろう”


衣麻・・・私は密かに決心した。