衣麻と僕と俺と私




確かにお母さんと衣里ちゃんが言ってて


瑛太に早く帰るようにお願いしてた。


「そうやったね、忘れとった」


いつもの調子でグサッと言われるんだろうな。


そう思いながらヘラっと笑った、と思う。


「・・・衣麻ねぇ、何かあった?」


階段に右足を掛けた所での瑛太の言葉。


いつもなら“何で?何もないよ!”って笑えるのに


今日は何故だか振り向くことすらできない。


「何か、変。帰るんもみんなと別々やったみたいやし」


こういう日の帰り際は確かに瑛太と遭遇してたっけ。


きっと、雪乃たちが遭遇したんだ。


「ユキちゃんは委員会って言いよったけど・・・ほんと?」


こういう時に限って右耳にすんなり入ってくる瑛太の声。


階段が反対側だったら聞こえなかったかもしれないのに。


「委員会は、中止になった」


涙がこみ上げて来るのを感じて、階段を駆け上がった。



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――――コンコン


部屋のドアがノックされて


“入るよ?”って衣里ちゃんの声がした。