衣麻と僕と俺と私




リュックを背負って窓を閉めて


溢れそうな涙を堪えて部屋に一礼し、ドアを閉める。


部屋を出る時にこんなにも悲しい気持ちに


なったことはあっただろうか。


ううん、こんなの初めて。


「衣麻ねぇ・・・さっき父さんに衣里ねぇから連絡あった。


無事ついたって」


「うん」


いつの間にか隣に立っていた瑛太からの言葉を受けて


ようやく階段を降りはじめた。


この階段を降り切ったら今度こそ


もう、この家とはお別れ。


「あのね、衣麻ねぇ!」


「・・・瑛太?」


急に大声を出した瑛太に驚いて振り向くと


瑛太は泣いていた。


それを隠すように俯いているけど、床には涙が落ちている。


私より3年短くても瑛太も14年間過ごしたんだ。


悲しくないはずがない。


「絶対、戻ってこうね」


泣いてはいるけどしっかりした口調で言った瑛太。


「うん、絶対ね」


何年かぶりに瑛太と手を繋いで家を出た。


また会う日まで、それまで元気で。


誰に向けてって訳ではないけど、そう思った。