衣麻と僕と俺と私




「ただいまー」


午後8時。


玄関から衣里ちゃんの声が聞こえて目が覚めた。


どうやら私は居間で寝ちゃってたみたい。


「あれ、衣麻1人?」


「うん。瑛太は友達んちに泊まり


お父さんは残業、お母さんと瑛斗は翔馬のお母さんと食事」


翔馬は一緒に夕飯を食べたから


私が寝てから帰っちゃったのかな。


「ふーん。あ、夕飯何か残っとる?」


「カレーがあるよ」


衣里ちゃんが台所に行ったから


私も立ち上がって部屋に向かう。


修学旅行から数か月。


私たちはまた1つ学年を足そうとしている。


補習三昧の春休みを目前に


毎日のように担任の先生に言われる言葉は決まってる。


『そろそろ進路を決めなさい。


就職でも進学でもどちらにしろ決めなさい』


個人的にも全体的にも聞きすぎて


耳にたこができそう。


はぁ・・・


ため息をついてベッドに座った時


家の電話が鳴るのが聞こえた。


“聞こえた”って言っても


部屋にスピーカーがついてるからなんだけど。


出ようと思って立ち上がったら音が止まったから


衣里ちゃんが出たんだと思う。


大方お母さんか、お姉ちゃんの友達。


いつもこの時間帯はそう決まってる。


それにしても、進路どうしよう。


両親に相談しても“衣麻の好きにしな”って言うだけだし。