衣麻と僕と俺と私




「お風呂も入ろうと思って」


“下着を取りに来た”とは言わない。


言ったら絶対、また変なことを言われる気がする。


「なら先にこれ食えよ。


空腹のまま入ったら気分悪くなる」


「え?」


“これ”と差し出されたものを見るために近づけば


翔馬がさっきテーブルの上に置いていたのは


おにぎり1つに漬け物、1切れの卵焼きだった。


「衣麻が体調悪くて寝てるって知ったら


クラスのみんなが分けてくれたんだ。


みんな良い奴らだよね」


テーブルの上にある食べ物を見ながら


胸がいっぱいになるのを感じる。


なんだか、今までの私は勘違いをしてたみたい。


だって、クラスのみんなはこんなにも良い人たちなのに


勝手に敵のように思い込んで距離をあけてた。


「衣麻」


翔馬が立ち上がって優しく抱きしめてくれた時


私の目から涙が流れた。


10歳の夏以来


7年と少しぶりの涙だった。