「衣麻ねぇ!どこ行くん?」
玄関で靴を履いていると
居間に続くドアから顔だけ見せた瑛斗がそう言った。
文化祭から約2週間。
私の隣にはボストンバッグとリュックが置いてある。
一応数日前から言ってはいたんだけど
まだ3歳だもんね。
「今日から修学旅行なんよ」
「しゅぐ帰る?」
こんどはすぐ近くまで来てしゃがみ込んだ。
少し前まで“衣麻”なんて呼ばれてたのが嘘みたい。
「んー・・・ほら、今日がここ。
ここの夜には帰って来るよ」
壁にかかってるカレンダーを指さして説明する。
まだ曜日感覚は分からないだろうから。
「ここに帰る?」
「うん、帰るよ。お土産買ってくるけんね」
“お土産”って概念は分かってるらしくて
途端に明るくなった瑛斗の表情。
良かった。
玄関先で泣かれたら行きにくいもん。