衣麻と僕と俺と私




去年はお母さんにどうしても外せない用事があって


来られなかったから、初めての文化祭。


「衣麻ちゃん、久しぶりやね。


ごめんね、いっぱい心配かけてしまったみたいで。


またいつでも・・・うちに遊びに来てね」


前とほとんど変わらない優しい笑顔のおばさん。


思わず泣きそうになってしまった。


「はい、是非。またお伺いします」


「衣麻ねぇ、ジューシュ!」


ジューシュ・・・ジュースね。


「何が良い?オレンジかリンゴか・・・」


「オレンジ!」


「衣麻、お母さんと檜垣さんはミルクティーね」


「はーい」


一瞬“馬越さんでしょ”って思ったけど、言うのはやめた。


だって、触れられたくない部分かもしれないもん。


「可愛いね、越智さんの弟くん?」


いつの間にか隣に立ってた千葉さんが言った。


「うん、そう。まだ3歳になったばっか」


“へぇー”って千葉さんは目をキラキラさせてる。


「千葉さんって幼稚園の先生目指しよんやっけ?」


確か、4月の自己紹介で言ってた気がする。