「あの、数学…ありがとう、ね」

「ううん、いいよー」

今にもしっぽを振り出しそうな勢いでにこにこ笑っていて、こっちまで感染しそうなくらいだった。耐えられなくて、ついお腹を抱えて笑ってしまった。どうしたの、どうしたの!?とアセアセしている澤村くん。

「だって澤村くんがすっごい可愛く笑うんだもん、つられちゃったよ」

男子に可愛い、と言って良いのかはわからないけど…にこにこしていたからまあ大丈夫だろう、と。

「俺そんなに可愛い?そんなことお母さんにしか言われたことないからなあ、嬉しい」

さっきとは違い、目を細めて微笑むものだから少しだけお腹のそこが熱くなったのは秘密のお話。

ずるいよ、澤村くん。

女のわたしよりもかわいくて、内に秘めたかっこよさがあって。

「〜〜〜っ、つらい…」

澤村くんが席を立ったとたん、そんな思いがこみ上げてきた。

「ちょっと、はな、はな!」

今の状況に浸っていたかったというのもあるが、玲が話しかけてきたのには抗えない。また俊哉?と聞いてみると首を振った。

「あのね、俊哉くんとだれだっけ…さわ…澤田?違うな…さわ、さわ…澤村!そう澤村と仲良いんだって!!ちょっともさそうな子と気が合うあたりほんとかっこいい…つらい…」

わたしは少しもや、とした。
澤村くんはそんなもさいだけの男じゃない。すごく優しいしかっこいいし可愛い。…でも、それを教えて玲まで好きになったら…。

え?好き?

わたし、澤村くんのこと…好きなの?

わからない。まだまだ知らない。わたしは少し調子に乗ってるのかもしれない。

そうだね、と軽く返し頭を冷やそうと席に座り、窓越しの景色を見た。

今日は風が強い。