「澤村くん、数学貸して」

ぱちん、と顔の前で両手を合わせてお願いと言うと、快く貸してくれた。

「おっちょこちょいなんだね、此見さんは」

この人は見かけによらずよく笑う。そんなところに萌えながら教科書を見せて貰った。

基本勉強が苦手なわたしは教科書なんて見たくもない。けれど今は見せて頂いている身…。今日だけは珍しくちゃんとやるか、と意気込みノートを取る。

それでもわたしにやる気なんて起きず、机にほっぺたをくっ付けて黒板を眺めていた。

「此見さんこら、授業聞きなさい」

先生に言われたのかと思い、飛び跳ねるようにして起きた。けれどその声の主は澤村くんで。

頬に熱が集まるのがわかった。クスクスとお腹を抱え震えている澤村くんのノートに「ばか!!」と書いてやった。ふわふわと笑いながらわたしのノートにも何かを書きはじめていた。

此見さん、字かわいい。
でも授業は聞かなきゃだめだよ!

その隣には数学の成田…というデブハゲのイラストがちょこんとあって、つい吹き出してしまった。さらに澤村くんの字の方がかわいかった。

この人は何なんだ、珍しい人だなあ、て思った。