少し前に買った靴もだいぶ擦れてしまった。それも味だ、と玲が言ったからまだ履きつづけている。

何を買うか…は決めていない。
初夏の肌寒い朝に何を求めるか。

ぽくぽくと誰もいない道を歩いていく。

群青の夏が、近づいている。

そう感じさせる清々しい空気を吸い込み、二酸化炭素を吐き出していく。

コンビニに着くと、いらっしゃいませ。と徹夜明けのような気怠さと共に挨拶をされる。
特にお腹も空いていなかったため、何をするでもなく飲み物の棚へと歩いた。
新商品のタグがついた「チョコレートマロンモカ」を手に取る。
こんなの誰か買うのだろうか。
栗を愛しているひとならチョコレートの要素に悪意を感じるだろう。
もやもやと考えながら棚に戻す。

「タピオカ」というのはいまいちわからない。
あれは何だ、ナタデココのようなものなのか、それとも乾いたのを水で戻した乾物なのか。
飲んでいれば女子力アップ!とよくあるけれど、女子力なんて自分で決めるものではないし、上げるものでも下げるものでもないと思う。

とりあえず朝に感謝しながら、50%OFFのシールがべたりと貼り付けられたピーチティーを手に取った。

チョコレートマロンモカ、また会おう。

そう心で決心し、わたしはおつまみの棚へと移動した。
どうしてもこのコーナーがわたしの憩いの場なのだ。
腹持ちもよければ味も良い。
あたりめと柿の種、辛口いかげそ。
これに鮭とばなんてあったら昇天できる。

店員に品物を見せるのは少々こっぱずかしいけれど、これもイカのため。我慢。

ありがとうございましたなんて間延びした挨拶を頂戴した。

帰り道は誰もいないんだ。豪勢にあたりめを噛んで行こう。

ばりばりと引きちぎるように袋を開け、イカ独特の鼻につくにおいを楽しみながら一本齧る。

ああおいしい。
イカになれるものならなりたい。

家がある方から誰かが歩いてくる。
どうせ人生に今日だけ会う人なんだ。
イカを咥えたはしたない女なんて忘れてくれ。

そんな呑気なわたしに、神は罰を与えました。


「あ、此見さんだ」

会ってしまった。
ああ神よ。
あたりめだけでも救ってください。