寮に泊った翌週の大会が終わると、俺は先輩了承のもと朝練を休んだ。
 学校に間に合うギリギリの時間まで駅で待っていた。彼女が訪れるであろう南口で。
 藤宮と海新だと、藤宮のほうが近い。ゆえに、どうしても待つことのできない時間ができる。
 しかし、そのわずかな時間ですれ違うことよりも、俺は別のことを延々と考えていた。
 もし御園生が来たらなんて声をかけようか、と。
 偶然、という言葉は使いたくなかった。かといって、待っていたというのも少々怪しい……。
 いかにも「待ってました!」な場所にいる自分がいたたまれなくなって、柱の影に隠れてみたり。
 さりげなく、「あ、おはよう。御園生ってこの時間の電車に乗ってるんだ?」なんて頭の中でシミュレーションしてみるものの、何度やっても声が上ずっているイメージしか想像できず……。
 でも、最初の取っ掛かりさえできれば自然な流れで同じ車両に乗り、藤倉に着くまでの三十分でメールアドレスや携帯の番号くらい訊けると思っていた。