「最近、なんか憂い顔だね?」
 前の席に座るハルに言われた。
 ハルとは水野春(みずのはる)。入学式初日に絡まれ、弓道部に連行された。
 半ば強引に入部させられ、以来なんとなくつるむようになった人間。二年次でクラスが同じになり、今は前後の席という位置関係。
「だから五月病だってば」
「……かまっちゃん、知ってる? 今月があと数日で終わるって。五月終わったら五月病って言葉も使えなくなるんだよ?」
「……それは困ったな」
「そうでしょうとも。そろそろ隼人先輩の言及もかわせなくなるよ?」
「非常に困ったな」
 隼人先輩とは滝口隼人(たきぐちはやと)先輩のこと。部の先輩で部長でもある。ハルの幼馴染でもあることから普段から良くしてもらっているものの、若干かまわれすぎな感が否めない。……いや、基本はものすごく面倒見のいい先輩。