状況からしてみれば、「傘を忘れてしまってどうしよう?」といったところだろう。
 幸い、自分の手にはビニール傘があった。
「御園生」
「あ、鎌田くん」
「これ、良かったら使ってよ」
「え? でも、鎌田くんが困るでしょう?」
「男は濡れて帰っても風邪なんかそうそうひかないよ。でも、御園生は風邪ひいて熱だしそう」
 彼女は苦笑した。
「家に電話したんだけど、珍しく誰もいなくてね。迎えに来てもらえないからどうしようかと思っていたの」
 こんなふうに普通に話してくれることが、俺の優越感になっていたのかもしれない。
 三学期になっても彼女の苦手意識は払拭されることなく、クラスの男子に話しかけられると固まってしまう。それを面白がる男子が出てきて、馴れ馴れしく彼女に触れる男子やからかう男子が増えていた。さらにはそれを面白く思わない女子の嫌がらせもエスカレートしていた。