泣いたり強がったり自己防衛したり、女ってそれだけのことを一度にできるものなのか……?
 でも――自分の考えを俺に押し付けないため、というのはわからなくもない。翠は自分の考えを持ってはいても、それを相手に強要するタイプではないから。
「まぁさ、司も引っかかるものがあったから俺たちに話たんだんたろ? なら、翠葉ちゃんの気持ち、もう少し考えてごらん。でも、正解を知っているのは俺たちじゃなくて翠葉ちゃんだ。だから、わからなかったら翠葉ちゃんともう一度話し合いな。ほら、カレーが冷める!」
「あー……もう冷めてるっぽい。電子レンジであっためよ? 楓さん手伝って」
「了解。司、煌のことちょっと見てて」
 さっき同様、有無を言わさず煌を腕に押し付けられた。
 妙にあたたかく柔らかい生き物を抱きながら思う。
 別れるときにはいつもと変わらない雰囲気に戻っていたけれど、翠も俺と同じように今頃さっきの会話を思い出しているだろうか。
 義姉さんが言ったのはあくまでも義姉さんの推測でしかないし、翠が実際に何を考えているのかはわからない。でも、もし義姉さんが言ったとおりだったとしたら、翠は二重に傷ついたことになる。
 そこまで考えて厄介な存在に気づく。
 ……翠が何かに悩んでいたとして、それに気づかないシスコンふたりじゃないだろう。
 間違いなくどっちかが声をかけるはずだ。もしくは、ふたりして声をかけるはずだ。そしたら、翠は何を考えるでもなく普通に話す。
「……唯さんと出くわしたくない」
 思わず零した言葉を拾ったのは煌だった。
「うーあーあーっ」
 何を言ってるのかはさっぱりわからない。
 顔に伸ばされた手を見ていると、開かれていたそれは小さなグーとなり、勢い良く俺の頬にめり込んだ。
 小さいとはいえ侮れないほどの威力。
「ふーーーっ」
 頬を膨らませた煌は満足げにも見え、まるで翠の仇をとられた気分になった。