「それも知りたかったこと?」
 尋ねると、翠は苦笑を浮かべた。
「今日優太先輩と話していて、知らないことにびっくりしたの。どうして知らないのかな、ってものすごくびっくりした」
 なるほど……。
 確かに知っていてもなんらおかしいことではない内容だけど――。
「ふたつあるうちのひとつは教えられる。けど、もうひとつは教えられない」
「……どうして?」
「うちの組しか知らないことだから」
 翠は少し間をおいてから、
「ひとつは合気道?」
「そう」
「もうひとつはワルツ……?」
 これで誘導尋問しているつもりなのだろうか。
 俺を見上げてくる翠をまじまじと見つつ、
「さぁ、どうかな」
「……だって、ワルツは姫と王子の恒例行事なのでしょう?」
 珍しく食い下がるな……。
「それが恒例になっているだけであって、そうしなくてはいけないというルールはない」
 俺の言葉に翠は声を挙げて驚いた。
「そもそも、どうして翠以外の人間と踊らないとけない?」
 割と真面目に口にしたつもりだったが、翠は口を噤んで肩を竦める。
「……あぁ、そうだった。翠は俺以外の男と踊るんだったな」
 若干の抑揚をつけて話せば翠はさらに身を縮こめた。
 そこでふと時計に目をやると、あと三分で八時というタイミング。
「ほかには?」
「……あの、訊きたいことじゃないのだけど」
 どこか言いづらそうな声音だが、ついさっき泣かせたことを踏まえれば、何を言われても聞き届けるのが筋というもの。