緊張を身にまとい翠の言葉を待っていると、
「お話がしたい……。たくさん、お話がしたい。話す内容はなんでもいいのだけど、できたらツカサのことが知りたい」
 俺の、こと……?
 ゆっくりと翠を振り返り、
「たとえば?」
「…………」
 すぐに思いつくものがないのか、翠は再び口を噤んだ。
 でも、さっきよりはいい。糸口さえあればなんとかできる気がする。
 翠の手を引いてエレベーターを降り腕時計を確認すると――七時四十三分。
「八時まで時間もらえる?」
 翠はコクリと頷き、唯さんに連絡を入れる旨を口にした。

 翠はメールを送り終えると言葉を探すように視線を彷徨わせ、ゆっくりと口を開いた。
「受験、いつ終わったの……?」
「AO入試だったから試験って試験はとくになかった」
 それ以上のことを訊かれるとは思っていなかった俺に反し、翠は受験の詳細を聞きたがる。
 順を追って答えていく俺を翠は真剣な目で見つめ、ひとつひとつの回答に丁寧すぎるほど丁寧に相槌を打って聞いている。さらには志望動機や自己ピーアールの詳細を知りたがり、話せば言葉少なに感心して見せた。
「九月半ばに最後の面接があって、十月の頭には合格通知が届いた」
「学力試験は……?」
「通常、AO入試であってもセンター試験を受ける必要があるらしいけど、俺の場合は指定校推薦枠の基準をクリアしているから成績面を問題視されることはなかった」
「インターハイもあったのに、面接が三回なんて大変だったね」
「別に……医者になるための一過程にすぎない。ほかに訊きたいことは?」
 本当にこんな話をするだけでいいのか、という思いで翠を見ると、
「明日、なんの競技に出るの?」
 努めて冷静に――そんな感じの声に表情。