「そうは言っても翠が試合に出るわけじゃないし受験するわけでもないだろ?」
 疑問を投げかけた途端、翠の表情が悲しそうなそれへと変化する。そして、今まで合っていた視線をおもむろに外された。
 少し顔を背けられ、表情を読むこともできなくなる。が、その数秒後、顔の向きを直した翠に真正面から見上げられた。
「そうだね、ツカサの言うとおりだと思う。私が試合に出るわけじゃないし受験をするわけでもない。でもね、大切な人が直面するから知っておきたいっていう想いもあるんだよ」
 俺の言うとおりと言ってはいるが、まったく肯定された気がしない。
 それどころか、最後に諭された気がするんだけど……。そもそも、
「翠が泣いた理由ってそれ?」
「……そう。でも、もう少し細分化してるかな」
 それ、できるだけ詳しく教えてほしい。
 何をどうしても、この件に関しては翠の考えを理解できそうにない。
「この際だから全部言ってほしいんだけど」
 すると、翠はひとつずつ話し出した。
「受験クラスの大きな予定は教えてもらえると思ってた。でも、教えてもらうどころか終わっていたし、合格していることすら知らなかった。教えてもらえたところで私ができるのは『がんばってね』とか『おめでとう』とか、ありきたりな言葉をかけることくらいだけど、何もできなくても知っていたかったの。そう思っていたところに『言う必要あった?』ってツカサに言われて悲しくなっただけ」
 何もできなくても知っていたかった……?
 涙の理由は「悲しかった」から……?
 これをどうやって理解しろというのか――。