隣に並び名前を呼ぶと、
「……自己分析完了、です」
 翠は小さく呟いた。
 けれど、その先に言葉は続かない。
 分析は終わったのに話すつもりはないのだろうか。
 そんなの、認められるわけがない。
「分析できたなら説明してほしいんだけど」
「うん……」
 翠は不安そうな表情で俺を見ると、
「その前に訊いてもいい?」
 何を……?
「ツカサにとって受験って、何……?」
 ……は? 「受験って何」って、何……?
「受験は受験でしかないだろ」
 大学に入るために必要なもので、高校三年時に通るべき通過点。
 それ以上でもそれ以下でもない。
「そういうことじゃなくて……」
 翠が何を言いたいのか、何を知りたがっているのかがわからない。
 まだ言いたいことや自分の考えがまとまっていないのだろうか。
 だから、こんなにも要領を得ない質問をしてくるのか。
 それなら紙に書き出す環境を用意したほうが――。
「なんてことのない予定のひとつ? それともイベントや行事クラスの大きな出来事?」
 は……?
「……翠が何を知りたがっているのかわからないけど、受験なんて通過点のひとつにすぎない。それが何?」
 翠は唇をきつく引き締めてから、
「私にとっては大きな予定なの。一大事なの。何と同じくらいかというならば、ツカサのインターハイやピアノのコンクールと同じくらいに大きな予定」
 すべての言葉のあとに小さな「つ」が表示されそうな、翠にしては珍しくも語気を荒げた口調だった。
 さらには、「どうしてわかってくれないの!?」と言っているかのような表情だ。