翠の様子が一変したのは受験の話になってから。
 でも、受験がいつなのか、と尋ねたときはいつもの翠だったと思う。
 なら、翠の表情が曇ったのはどのタイミングなのか――。
「受験が終わっている」ということを知ってから……?
 たかが受験が終わっているだけでどうしてこんな状況に陥るのか、俺にはさっぱり理解ができない。
「だって、私、知らなかった」って何……?
 言ってないのだから知るわけがない。
 その言葉が持つ意味やニュアンスを考えるなら、「どうして教えてくれなかったの?」と変換できるものの、それこそ意味不明だ。
 なぜ教える必要がある……?
 教えたところで受験するのは俺だし、翠が知って得することもできることもないと思うけど。
 完全に手詰まりで、俺はひたすら翠の後ろ姿を見て歩いていた。
 坂を上っているというのに翠の頭は上を向いていない。それどころか、不自然なくらい俯いていた。
 それだけ地面を見て歩いていれば躓くことはないだろうけれど、俯くことで圧迫される神経が悪さをしないだろうか。
 そんなことが心配になる域。
 ところが、坂を上りきる手前で首の角度が変わった。つまり、頭を上げた。
「……考え、まとまった?」
 急に声をかけたからだろうか。
 翠は不自然なほど肩を揺らして驚いた。
 反応はあったものの振り向きはしない。
 負けず嫌いの翠のことだから、泣き顔を見られたくないとかその手の反発心があるのかもしれない。
 それでも、顔を見ずに話すつもりは毛頭なかった。