時間どおりに練習を終えた俺は、何を考えることなく真っ直ぐ昇降口へ向かった。
 各組同時刻に練習を終えているだけに、昇降口はそれなりの人でごった返している。しかし、そこに翠の姿はない。
 あたりを見渡しても女子より男子のほうが目立つ。つまりは着替えに時間がかかるのが女子、ということなのか……。
 そうは思ったものの、俺が使っている下駄箱の向かい――三年B組の下駄箱に人がひとりもいないところを見ると、組自体がまだ解散していないのかもしれない。
 壁に寄りかかり携帯を取り出すと、聞きなじみのある声が聞こえてきた。
 そちらへ視線を向けると、海斗と佐野が数人の男子と連れ立ってやってきたところだった。
「司、翠葉のこと待ってんの?」
「そう」
「翠葉、もうちょっと時間かかるかも?」
 その言葉を疑問に思うと同時、佐野が理由を口にする。
「ちょっと組でゴタゴタがあったんですけど、御園生、そのゴタゴタの張本人のこと気にして体育館に残ってるみたいだったから」
 あぁ、と思った。
 やっぱりアクシデントは起きたのか、と。
「でも、簾条たちも一緒なんで心配ないと思います」
 それらの情報に礼を言いメールチェックを始めると、今度は簾条たち女子のグループがやってくる。
 その中に翠もいるものだと思って携帯をしまったが、翠はそのグループにいなかった。
 簾条と一緒にいたんじゃないのか……?
 俺の視線に気づいた簾条が、
「翠葉なら団長に呼び止められて、今はまだ小体育館よ」
 風間が? ……なんで。
「なんの話かは知らないわ。でも、そう時間はかからないでしょ」
 そう言うと、簾条はあっさりと昇降口を出て行った。