「ひとつは合気道?」
「そう」
「もうひとつはワルツ……?」
 ツカサは少し考えてから、
「さぁ、どうかな」
「……だって、ワルツは姫と王子の恒例行事なのでしょう?」
「それが恒例になっているだけであって、そうしなくてはいけないというルールはない」
「え……?」
「そもそも、どうして翠以外の人間と踊らないといけない?」
 真顔で言われて困ってしまう。と、
「あぁ、そうだった。翠は俺以外の男と踊るんだったな」
 どこか意地悪な響きを含む声音に肩身が狭くなる。
 そしたら、「知りたい」とわがままを通すこともできなくなった。
 ツカサは再度腕時計に目をやり、
「ほかには?」
 これで最後、とでも言うかのような言葉。
「……あの、訊きたいことじゃないのだけど」
「何?」
 いつもより優しい問いかけに、今なら言えるかな、と魔が差した。
「明日、応援に立つことがあったら――写真……撮ってもいい?」
 ツカサは面食らったような顔をしたけれど、すぐに表情を改めた。
 その視線に理由を求められている気がしたから、
「……今日の応援合戦、とても格好良くて……写真、欲しいなって……」
 やっぱり返り討ちに遭うだろうか。不安でドキドキしていると、
「それで帳消しにできる?」
「え……?」
「今日泣かせたの……。それで帳消しにできるならかまわない」
 まさかそんなふうに言われるとは思ってもみなくて、一瞬絶句してしまった。
「いいの……? 本当にいいの……?」
「……帳消しになるならかまわない」
「なるっ! なるよっ! 帳消しになるっ!」
 思わず大きな声を発すると、「喜びすぎ」と窘められた。