ふ、と顔を上げるとマンションの前だった。
 涙は止まったけれど、どんなタイミングでツカサを振り返ろう。
 振り返った暁には何か言葉を口にしなくてはいけないわけで……。
 すべてが難しいことに思えて、ただでさえゆっくりな歩調がさらにペースダウンしそうになったそのとき、
「考え、まとまった?」
 背後から声をかけられ不必要に驚く。
 なんと答えようか考えているうちにツカサは私の隣に並んだ。
 泣いたあとの顔を見られることに抵抗はあるけれど、避けて通れるものでもない。
「翠……」
「……自己分析完了、です」
 でも、それを話すのが、説明をするのがひどく難しい。
「分析できたなら説明してほしいんだけど」
「うん……その前に訊いてもいい?」
 ツカサの顔を見ると、「何を?」という表情をしていた。
「ツカサにとって受験って、何……?」
「……受験は受験でしかないだろ」
「そういうことじゃなくて……」
 どう説明したらいいのかな。
「……なんてことのない予定のひとつ? それともイベントや行事クラスの大きな出来事?」
「…………翠が何を知りたがっているのかわからないけど、受験なんて通過点のひとつにすぎない」
 ……やっぱり。
「それが何?」
「……私にとっては大きな予定なの。一大事なの。何と同じくらいかというならば、ツカサのインターハイやピアノのコンクールと同じくらいに大きな予定」
「そうは言っても翠が試合に出るわけじゃないし受験するわけでもないだろ?」
 想像したとおりの答えを返されて虚しくなる。