そんなことを考えていると、
「袖じゃなくて手にすれば?」
「え?」
「これ……」
 言いながらツカサは左手を上げ、袖を摘んでいた私の手までつられて上がる。
「あっ……うん」
 ちょっと恥ずかしくなって俯くと、新たな話題を振られた。
「紫苑祭明けの土日、翠の予定は?」
「レッスンの再開は十一月の第二日曜からだからこれといった予定はないけれど……ピアノの練習、かな」
 この二ヶ月間は練習する時間がとれないこともありレッスンを休ませてもらった。
 レッスンを再開まであと二週間あるとはいえ、ある時間をすべて費やしても練習量は足りない。
「二日とも?」
「……うん。ここ二ヶ月まともに練習できなかったからがんばらないと。……でも、どうして?」
「藤山の紅葉が見ごろだか――」
「行きたいっ!」
 条件反射のように口にしたら、ツカサがくつくつと笑いだした。
 さらにはツカサ特有の意地悪い笑みを向けられる。
「でも、ピアノの練習があるんだろ?」
「ある、けど……行きたい」
「……じゃ、日曜の午後。日中のあたたかい時間に一、二時間散歩しよう」
「嬉しい……」
 車の免許を取ったら白野のブライトネスパレスへ紅葉を見に行こうと話していたけれど、結局のところは紫苑祭準備に忙殺されて行くことができなかった。
 もちろん、その間にはデートらしきことはしていない。したのは試験勉強くらいなもの。