「でも、去年の話だし……」
「その話、俺知らないけど?」
「だって、五月だか六月くらいの話だもの……。ツカサだって誰に告白されたなんて話はしてくれたことないよ?」
「……ハチマキの交換は?」
「そんな話だってしてないもの」
 第一、ツカサが作ってくれたハチマキを人と交換するわけないじゃない……。
 そんな視線を返してみると、
「ふーん……」
 どうしてだろう……。
 文脈的には納得してもらえているふうなのに、返される視線が痛い。
 今度は、「じゃぁ、どうしてふたりでいたのか」といったところだろうか。
「ツカサ……尋問みたい」
「そう取られてもかまわない」
 開き直った人に対抗することほど虚しいものはない。
 私は観念して組であった出来事を話すことにした。
「今日ちょっと組で色々あって……。歩きながら話すから帰ろう?」
 私はツカサの袖を引っ張って昇降口を出た。

 競技が終わってからの出来事を話したのち、
「それで最後に呼び止められたの。呼び止められて――激励された感じ」
 ツカサも納得したのか、意味深な視線を返してくることはなくなった。
 いつもよりも人通りの多い学園私道を歩きつつ、
「ツカサ、ワルツ教えてくれてありがとう」
「礼なら前にも言われてる」
「そうなんだけど……」
 それはすべての理由を知らなかったときのお礼であって、新たなる事情を知ってのお礼とは少し異なる。
 でも、そのあたりを明確にしてしまうと地雷を踏む気がするし……。