佐野くんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、
「……なんだ、そうだったんだ」
「うん」
「……俺、御園生のマイナス思考が炸裂して、『申し訳ない』を連発されるのかと思った」
「まさか……申し訳ないと思って競技に出ることのほうが申し訳ないでしょう? それに私、明日は勝ちに行くつもりだったのだけど……」
 佐野くんは違うの……?
 視線で訊くと、佐野くんはくつくつと笑いだした。
「俺も勝つつもりでいる。そもそも、負けるかもなんて思って試合に出たりしないってば。それに、俺も口にはしなかったけど、御園生と同じこと思ってた。だって、明日だよ? 明日っ。前日のこのタイミングで言い出すとかなしだろっ!」
 その言葉を聞いてほっとしてしまう。
「佐野くんが同じ気持ちでいてくれたの、なんだかとっても嬉しい。ほっとしちゃった」
「頭にこなかったら嘘でしょ? だって、そのくらいがんばって練習してきたし、俺らパートナーだよ?」
 ふたり顔を見合わせ笑ったあと、佐野くんは挑発的な視線を向けてきた。
「訊かなくてもわかってるんだけど……御園生、どうしたい?」
「そんなの決まってる」
「「今までで一番上手に踊りたい。もちろんノーミスで」」
 その言葉を最後に、私と佐野くんはダンスのスタンバイに入った。