私はびっくりしすぎて口をポカンと開けたまま優太先輩の目を見つめていた。
「要は擬似恋愛みたいなもの。これならジンクスだって楽しめるでしょ?」
 できるかできないか、と言われたらできるだろう。でも、逆立ちしても私には理解ができそうにない。
 学校を出たら友達って――。
 心はそんなに簡単に切り替えられるものなのだろうか。
「翠葉ちゃんの周りにはそういう友達いない?」
 友達の顔を頭に思い浮かべてみるものの、それらしき人は思いつかなかった。
 考えてみれば、誰と誰が付き合っている、と私が認知しているのは主に生徒会メンバーくらいなもので、そのほかといったら佐野くんと香乃子ちゃんくらいなもの。
 でも、校内においていつも一緒にいる男女、というのはそれ相応に目にしているわけで、それらの大半が「パートナー」というものならば、驚かざるを得ない。
「びっくり、って顔だね?」
「……びっくりです」
「俺も、初めて知ったときはびっくりした。だってさ、校内限定ってことはさ、学園敷地内でしかデートもできないんだよ? いくら広い敷地内とはいえ、学校じゃキスくらいしかできないし」
 その言葉にボッ、と火がついたように顔が熱を持つ。
 完全に意表をつかれた。
 顔を上げられずに俯いていると、隣からくつくつと笑い声が聞こえてくる。
「ごめんごめん、セクハラでした。まぁさ、そんな人たちがいることを知っちゃうとさ、誰を好きになっても良くて、誰と付き合っても咎められることのない自分は幸せだな、と思うわけですよ」
 私は熱い頬を押さえたまま「そうですね」と、気もそぞろな言葉を返すことしかできなかった。