こういう視線に全く免疫がないわけではない。けれど、
「飛翔くん、確信犯すぎて文句を言いたいです」
「利用できるものは利用する」
「それの何が悪い」と言わんがごとく視線を返され、私は口を噤むに留めた。
 背後からそれまで以上の歓声が聞こえてきて、今度は誰が走るのか、と振り返る。と、ツカサと海斗くんがスタートを切るところだった。
 ピストルが鳴った瞬間、ふっ、と音が消え、そのあとのことはあまりよく覚えていない。
 視界には海斗くんとツカサのふたりが入っていたはずなのに、気づけば私の目はツカサしか追っていなかった。
 周りでキャーキャー騒ぐ声も何も聞こえなくなり、ただただ涼しい顔で走るツカサを見ていた。
 たぶん、「目を奪われる」とはこういうことを言うのだ。
 あっという間の十数秒がスローモーションで見えていた感じ。
 ゴールテープを切った途端に周りの音が聞こえ始め、あまりの歓声の大きさにびっくりして一歩引く。そこへ一言、
「あんた、赤組の副団なんだけど」
「え……?」
「今、誰の応援してたんだか」
「あ……」
「別にいいけど」
 飛翔くんは澄ました顔で本部へ向かって歩き出した。