全二一五組が走る中、走り終わった人たちによる応援が始まれば、グラウンドは徐々に賑やかになっていく。けれども、一組前のグループがゴールした途端、歓声が止んだ。
 これから誰が走るのかとスタートラインに目をやると、佐野くんが立っていた。
「用意っ」
 パンッ――。
 久しぶりに人の走る姿を注視した。
 きれいなフォームで誰よりも早く駆け抜ける。スタートからほかの人との差があり、ゴールするときには数メートルの差が空いていた。
「さすが……」
 そこへ戻ってきた優太先輩に、
「あちゃ、佐野くんの番だったのか。もうちょい早く戻ってこれたら良かったね、ごめんごめん」
「あ、いえ、そんな……」
「でも、俺戻ってきたから翠葉ちゃん観戦に行ってきていいよ」
「え? でも……」
「今は集計の仕事ないでしょ? 海斗や簾条さんもまだだし、司が走るのもこれから。行っておいで」
 座っていたパイプ椅子を強引に引かれ、優太先輩に甘えることにした。