競技という競技に出ない御園生翠葉の練は、応援団とダンスの練習のみ。それらのスケジュールを見ると、月水金の練習日以外は帰って会計の仕事をしているようだった。
 しかし、女には衣装とハチマキを作るという作業がある。それは御園生翠葉も例に漏れず。
 噂を聞いたところによると、御園生翠葉は司先輩の長ランも作ることになったはず。
 普通に考えて、長ランふたつを作るというのは大変な部類に入るだろう。果たしてすべてを平行作業できているのかどうか……。
 疑問に思った俺は図書室へ赴き、パソコンを起動させリトルバンクとエクセルをチェックした。
 データを見る限り、毎日きちんと更新がなされている。しかし、会計の仕事ができていても、ほかへしわ寄せがいっているかもしれない。
 それとなく千里に探りを入れたものの、授業始めにある小テストで御園生翠葉が失点している事実はなかった。
 成績にも影響が出ていないとしたら、残るはひとつしかない。衣装作りだ。
 どこで根を上げるだろうか、そんなことを考えていたある日――。
「翠葉、刺繍進んでる?」
「んー……がんばってはいるのだけど、普段やり慣れないものって難しいね。今ハチマキにする刺繍が三分の一終わったくらい」
「私も同じくらいよ」
 簾条先輩との会話を聞いてしまった。
 ……衣装作りも平行してできている?
 いや、いくらなんでもそんな時間は――。
 鈍臭く見えて、実はそうじゃないのか……?
 疑問に思いながら応援団の練習が始まった。