「うん、そんな感じだよね。とりあえず、最初にスケジュールさえ組んじゃえばあとはその通りに行動するのみだからさ。ちょっとがんばろうか」
「はい」
 そこへ衣装のパターン班の班長がやってきた。
「亮太、姫をちょっと借りたいんだけど」
「あぁ、衣装の採寸ね。今ここでやってもらえる?」
「了解」
 御園生翠葉は採寸をされながら団長に尋ねる。実に不安そうに、
「副団長ってスケジュールを組む以外に何をすればいいんですか?」
「応援合戦のための簡単な振りや配置を考えて覚える。次は、応援団の前で模範となるべく実践。早い話、自分のクラスの応援団班に、振りと陣形を教える役って感じかな」
 不安そうな顔は徐々に青ざめていく。今になって大役であることを認識したかのように。
 今ならまだ引き返せるんじゃないの? 引き返したほうがいいんじゃないの?
 そんな視線を向けるも、御園生翠葉が俺を見ることはなかった。
「安心してよ。御園生さんが走ったりできないのは知ってるから、そういうことがないようなものを考えるつもりだし、ひとりで声を張るのは俺の役目。御園生さんはその他大勢の応援団と一緒に声を出せばいいだけだよ。ひとり悪目立ちすることはないから」
「は、はい……」
「御園生さん、笑顔笑顔っ! 紅葉祭と一緒、楽しんだもの勝ちだよ!」
 御園生翠葉は青ざめた顔に苦笑を浮かべて浅く頷いた。
「バカが……」
 俺は初めて人がどつぼにはまる瞬間を見た。