「じゃ、それ実践して」
 立ち上がった翠の背に手を添え、
「あいつらが望んでるのは全開の笑顔らしいけど、普通に笑みを浮かべられればそれでいいから」
 これは優しさとかフォローではない。ただ、全開の笑顔など俺だってめったに見られないのだから、その他大勢に見せるのが嫌でセーブしただけ。
 そうとは知らない翠は、「ありがとう」と口にした。

 翠は真っ直ぐカメラマンのもとへ向かい、
「あの、部長にはとっても申し訳ないのですが、セルフタイマーを使ってもいいですか?」
「えっ? 俺、撮らなくていいの?」
「すみません……。人に撮られているとどうしても構えちゃうので……」
「それなら、この機種スマイルシャッターが使えるからそれを使えばいい」
「ありがとうございます」
 会話を見守っていたメンバーも、「それで撮れるなら全然オッケーだよ」と口々に言う。
 すぐに撮影が再開するかと思いきや、翠の要望はそれだけでは終わらなかった。
「あの、すみません――体育館から出ていてもらえるとありがたいのですが……」
 ものすごく申し訳なさそうに申し出る。と、
「面倒くせー女」
 飛翔が先陣を切って行動を起こした。それにつられるようにしてほかの人間たちも出て行く。
 翠はカメラの設定を確認して戻ってきた。すると俺の背後に回るなり、
「ツカサ、あのカメラね、笑うと勝手にシャッターが落ちるの。だから、せーの、で正面向いて笑顔作ろう?」
「了解」