手っ取り早くその言葉を発しようとした瞬間、
「あんたが笑わないと、次にここを使う組が迷惑被るけど?」
 飛翔に先を越された。
 飛翔の不機嫌も相まってその場はしんとしたが、その言葉こそ翠にもっとも効果的なもの。
「……あの、すみません。顔の筋肉ほぐしてくるので少しだけ時間ください」
 翠は小走りで小体育館の裏へ続く出口へと向かった。
「嵐、ジャージ」
「はいっ。翠葉のフォロー、お願いね」
「飛翔、少しは言葉選べよ」
 千里はそう言うが、飛翔のとった行動は間違ってはいない。
 相手が翠ならば、こういった状況下では飛翔の取った行動がベスト。
 それを知っている俺は、飛翔にとくに何を思うでもなかった。

 階段に腰掛けた翠は、音が鳴りそうなほどぐにぐにと両頬を手でほぐしていた。
 露出しすぎの足にジャージを落とすと、びっくりした顔がこちらを向く。
「次、ここを使うのはうちの組だから少しなら融通できるけど?」
 翠はこんな言葉は望まない。わかっていながら、求められてもいない優しさを見せてみる。すると、翠は少し考えてから、
「……あのね、人が撮るんじゃなければ笑えるかもしれない」
「は?」
 今度は何を言い出すのか。じっと翠を見つめると、
「……人に見られているのが苦手なの。だから、セルフタイマーなら笑えると思う」
 翠は口元を引き締めた。