「翠の望みは?」
 翠はゴクリと唾を飲み込んでから、
「……ぎゅってしてほしかっただけっ」
「了解」
 俺は再度翠の身体に腕を回す。
 すっぽりと腕に収まる翠の頭を見ながら思う。
 たぶん、本当に言いたいことは違う。さっき飲みこんだ唾と一緒に呑み込んだのだろう。でも、
「ずるいよな」
 翠が本当に望んでいたものはわからないけど、それでも「ずるい」と思う。
 翠が望むのは良くて、俺が望むのは受け入れられない。
 俺はこの部屋では何もしないと約束してしまったから。
 言ったことは守るけど――。
「このツケはいつか全部払ってもらうつもりでいるから。……おやすみ」
 これ以上抱きしめているとキスをせずにはいられなくなる。だから、名残惜しさを噛み殺して翠の部屋を出た。